声明・アピール

     2009年

博物館法改正に反対する意見表明(2009.12.25)

2009年12月25日

文部科学大臣
   川端達夫様

大阪歴史学会       
代表委員 平雅行

博物館法改正に反対する意見表明

 平成21年10月7日に公表された地方分権改革推進委員会第3次勧告において、義務付けの見直し項目として、博物館法第12条(都道府県による登録要件の審査)の第1項から第3項の廃止または条例委任が盛り込まれた。

 博物館法第12条は、博物館が備えているべき要件として、第1項で博物館資料をもつこと、第2項で学芸員その他の職員を配置していること、第3項で建物および土地があることを定めている。

 今般の勧告は、登録要件の規定を都道府県に任せるものである。平成21年12月4日付の生涯学習政策局社会教育課からの各都道府県への事務連絡によると、それぞれ個別に定めることが予告されており、廃止でも条例委任でも都道府県が決めることに代わりがないようである。

 この勧告により博物館法が改正されると、都道府県においてはこれまでのものを基礎に要件を定めるであろうが、博物館の要件規定に差が生まれ、資料の収集・保管・展示・調査研究という同法第2条の規定する博物館機能を大きく損なうことになるであろう。平成19年6月にまとめられた『新しい時代の博物館制度の在り方について』においては、現行の登録制度を基礎として、使命や目的、活動内容などの実態に即した新たな制度をつくり、登録博物館の信頼を高めることが必要とされている。学芸員の必置義務を法律から削除し、都道府県の裁量に委ねることは、博物館法施行規則を改正して学芸員の資質向上をはかろうとしていることとも整合しない。

 博物館法第12条の規定は博物館の立脚点そのものであり、引き続き法律に規定すべき要件である。また我が国の博物館の水準を維持する上で、都道府県が独自の考え方を加味した要件を規定するにしても、国が博物館機能を果たすための各要件に関する一定の基準を引き続き示すことが必要である。

 以上のことから、第3次勧告に盛り込まれた博物館法第12条の三つの項目について、廃止または条例委任することに反対する。文部科学省においては、『新しい時代の博物館制度の在り方について』にもとづき、まず国において責任をもって新たな登録制度について指針を示すべきである。第3次勧告にもとづく法改正を進める上で、博物館法については、我が国の文化政策における国が果たすべき役割という観点から、慎重に対処することを要望する。

出土遺物廃棄への抗議と要望(2009.12.25)

2009年12月25日

香芝市長 梅田善久様
香芝市教育長 中谷彪様

大阪歴史学会        
代表委員 平雅行

出土遺物廃棄への抗議と要望

 このたび、香芝市において、発掘調査で出土した尼寺廃寺跡出土の瓦、サヌカイトなどの出土遺物が大量に廃棄されたとのことである。

 遺跡から取り出された文化財である出土遺物は、発掘の記録類とともに、文化財保護を所管する教育委員会で責任をもって保管されなければならないものである。出土遺物の種別や態様はさまざまであるが、可能な限り活用をはかり、特性に応じて取扱いを区分するとしても、それぞれ適正に保管・収蔵すべきである。多くの地方公共団体で同じ課題に苦慮していることは承知しているが、そのなかで収蔵施設を確保し、文化財である出土遺物の保管に努めている。

 今回の事態は、出土遺物の適正な管理や活用の努力をおろそかにし、収蔵施設の不備を解決することなく執られた安易な行為であり、厳重に抗議するものである。

 香芝市は、旧石器時代遺跡の数多くの調査、尼寺廃寺跡や平野塚穴山古墳を含む平野古墳群の調査などの実績、二上山博物館での展示や講演会、ふたかみ史遊会の活動など、調査や普及活動を積み重ねてきた。それにもかかわらず、こうした事態が生じたことは遺憾であり、収蔵施設等の確保がなされてこなかったことは、香芝市の埋蔵文化財行政の貧困さを露呈するものである。発掘調査を含む文化財保護行政を担う地方公共団体の役割が十分認識されてきたのか疑念をいだかざるをえない。

 香芝市においては、今回の問題を重く受け止め、廃棄遺物を回収することで事態を収拾するのでなく、市の文化財行政の現状と課題を取りまとめる機会とすべきである。収蔵庫の確保など応急的対応も必要であるが、課題をふまえて総合的な文化財施策を立て、必要な条件整備を計画的に進めることを要望する。

     2008年

大阪府の博物館施設「見直し」に対する要望書(2008.3.6)

 橋下徹大阪府知事は、大阪府の財政再建のため、大阪府立の施設八三のうち中之島図書館と中央図書館以外の施設は不要との見解を示し、本年六月までに検証を行い、必要性のないものは廃止・売却を進める意向とのことです。そこには弥生文化博物館、近つ飛鳥博物館、狭山池博物館、泉北考古資料館などが含まれています。二〇〇八年七月までの新年度暫定予算では、人件費と維持管理費以外は計上されず、春季特別展が中止に追い込まれる事態が既に生じております。

 弥生文化博物館や近つ飛鳥博物館あるいは狭山池博物館は、弥生時代や古墳時代あるいは土木開発の歴史に関する専門館として、泉北考古資料館は重要文化財である陶邑窯跡群出土資料の公開施設として、いずれも他にはない独自色を発揮し、これまで全国的に評価の高い先端的な活動を進め、生涯学習施設としての役割を果たしてきました。特別展企画を通して全国に研究成果を発信するとともに、講演会や各種の講座等を開催するなど、府民に質の高い生涯学習サービスを提供し、また学校教育との連携を進めてきました。さらに各種のイベントを通して、地域の文化的活動にも貢献しています。

 歴史や文化・文化財は、いまを生きるわれわれにとって様々な価値や意義を有し、また未来の人々へ受け継がれていくべきものです。こうした公益性ゆえに、歴史を大切にし伝統的文化や文化財を保護すること、公立博物館を通じて教育活動を行うことは、地方公共団体の役割として位置づけられています。行政が責任をもって継続していく必要があり、大阪府がその役割を放棄することは許されません。

 大阪は奈良や京都とともに古代以来日本史上重要な役割を果たしてきた地域であり、江戸時代には大都市として発展を遂げ上方文化を育んできました。世界遺産登録をめざす巨大な王陵、古代の難波宮、中世の自治都市堺、近世の大坂城と城下町など、日本を代表する歴史遺産が数多く残っています。大阪の歴史が生み出した数々の文化財や独特の文化は、大阪が有するかけがえのない魅力です。この魅力を積極的に打ち出し、個性豊かな現代大阪を創造することが、多くの人々を惹きつけることになり、大阪の活性化にもつながると考えます。大阪府は歴史と文化の活用に一層重点的に取り組むべきであり、博物館施設はそのための重要な役割を担っています。

 大阪府の博物館施設は、これまでの限られた予算の中で、資料の収集や調査・研究を進め、展示等による社会教育活動を実施し、学校教育との連携にも尽力してきました。それゆえこれらの施設は子供や高齢者を含めた多くの府民に利用されており、また府内外から広い支持を集めています。博物館の培ってきた実績や力量は容易に代替できるものではなく、これまでの蓄積をふまえて博物館の機能をさらに活かしていく方法を考えていくべきです。これらを手放したり、行政の責務の外に置くことになれば、大阪府民にとって取り返しのつかない損失となることでしょう。また大阪府の姿勢や判断は、府下の市町村のみならず全国的に悪影響をもたらすことは明らかです。そもそも、こうした重大な影響をおよぼす「見直し」が、知事主導で短期間で一方的に進められることに危惧を抱かざるをえません。

 以上の見地から、大阪府の博物館施設についての今次の「見直し」において、廃止や売却あるいは事業の縮小を進めることに反対し、以下の点を要望します。

                   記
 
 一、大阪府の博物館施設を、大阪府の運営責任のもとに存続させ事業を継続すること。

 二、「見直し」にあたっては、有識者からなる諮問機関を設け判断を仰ぐとともに、博物館の果たしてきた役割を正当に評価し、教育委員会や博物館職員の見解や、利用者である府民や研究者の意見を尊重すること。


大阪府知事   橋下徹殿
大阪府教育長  綛山哲男殿
大阪府議会議長 岩見星光殿

大山 喬平(京都大学名誉教授)
                 小野山 節(京都大学名誉教授)
                 北野 耕平(神戸商船大学名誉教授)
                 栄原 永遠男(大阪市立大学教授)
高橋 隆博 (関西大学博物館長 
・関西大学教授)
高橋 昌明(神戸大学教授)
                 都出 比呂志(大阪大学名誉教授)
直木 孝次郎(大阪市立大学名誉教授)
中村 博司(大阪城天守閣前館長)
広川 禎秀(大阪市立大学名誉教授)
三輪 泰史(大阪教育大学教授)
藪田 貫(関西大学教授)
吉田 晶(岡山大学名誉教授)
和田 晴吾(立命館大学教授)

              大阪歴史学会・大阪歴史科学協議会・(財)古代学協会
古代学研究会・地方史研究協議会・日本史研究会
歴史科学協議会・歴史学研究会

平野屋新田会所の破壊に抗議し保存・活用を求める要望書(2008.1.18)

 1704年の大和川付け替えにともなう深野池の新田開発は、大東市の歴史上ひとつの画期となるものであり、新田の運営にあたった平野屋新田会所は、その歴史を今に伝える重要な歴史遺産です。しかしながら、新聞報道によれば、元の所有者が手放したこの土地・建物が競売にかけられ、宅地開発業者がマンション建設を目的に落札し、現在、建物の解体工事にとりかかったとのことです。この間「平野屋新田会所を考える、会」の活動や、大東市、大東市議会をあげて、その保存に取り組まれてきたことは承知しております。また、その歴史的重要性は文化庁も認めており、国史跡にする方向とのことです。

 にもかかわらず、開発業者と大東市の間で売却の交渉が難航し、ついに今日の事態に至ったことは、まことに残念でなりません。既に国史跡となり建物は重要文化財となっている鴻池新田会所と比べても保存状態がよく、江戸時代の農業経営の姿を示すものであるのみならず、近世・近代とこの地域の歴史の中で生き続け、今日なお地域の象徴となっている歴史遺産であり、大東市にとって失うわけにはいかない文化財であるはずです。

 地方財政の悪化はよく承知しておりますが、しかし文化財は一度失ってしまえば元に復することは不可能です。将来にわたって大切に伝えていくべきこの貴重な平野屋新田会所を喪失することは、なんとしても回避しなければなりません。この間の大東市の尽力は理解しておりますが、市民と行政が一体となり、開発業者となお粘り強く交渉し、事態の打開にむけて努力していただきますよう、ここに強く要望します。


 2008年1月18日

大阪歴史学会代表委員 藪田貫

〔大東市長、大阪府教育委員会教育長、文化庁長官に送付〕